孤独な恋人文庫判208ページ

この小説は、著者大坪がみずからの新境地として、多元焦点化の技法を使い殺人をテーマに盛り込んだ力作です。空華第六号と第七号に分割掲載されました。

平成初期と平成末期の話が、章ごとに交互に語られていく凝った作りになっていますが、書き始めた当初は平成初期の方の話だけでした。それが、ラストを悩んでいたある日、大坪が湯船に浸かっていると、アルキメデス的インスピレーションが天から降りてきて、森田望一の出てくる平成後期の話を思い付きました。そのあと、ある程度出来ていた平成初期の話を、区切りの良いところでぶつ切りにして、その中にまたぶつ切りに平成末期の話を入れて出来たのが、この作品です。

多元焦点で語られる故、章ごとに語り手が代り、どの登場人物が主人公であるかは、容易に決めがたいのですが、それは読んで戴いたあとに、読者おのおのが感じることなのだと思います。

簡単な内容紹介をすると、大学生の森田望一が出生の謎を抱えながら、成人式で告白した同じ学科の佃美穂と交際を始めるが、デートを重ねるうちに、望一は祖父から出生の謎について、徐々に痛ましい事実を教えられていく。出生の謎を知った望一は、みずから背負った業とも言える因縁を、その後どのように解消していくのか、というストーリーです。

登場人物としては、このほか、平成初期の話に出てくる、佐藤護と森田ひとみがいて、佐藤護の青春時代のこころの支えだったシンガーソングライターの書いた曲が「孤独な恋人」というタイトルになっています。この歌は、カラオケボックスで、ひとみが護に歌った歌でもあります。歌詞は全文掲載してありますが、大坪の作詞のため、あまり上手いリリックではないです。それでも、雰囲気を楽しんで戴けたらと思います。

表紙デザインは、なかなか美しいイラストですが、アネモネの花のデザインだそうです。松下みずほさんに描いて戴きました。

大坪の作品の中では、よみやすい小説です。よろしければ、御一読下さい。